INTERVIEW インタビュー記事

手放すことから、会社は変わる。Closerとタスキーの関係

株式会社Closer 代表取締役CEO樋口 翔太(ひぐち しょうた)

1997年新潟県生まれ。長岡工業高等専門学校卒業。筑波大学大学院 知能機能システム学位プログラム博士後期課程在学中。幼少期からロボット開発に取り組み、2017年にRoboCup世界大会で優勝。2021年11月に株式会社Closerを設立し、食品・化粧品・医薬品などの製造現場をはじめ、小規模な生産ラインへのロボット導入を進めている。2022年度未踏アドバンストにも採択。

タスキー税理士法人 代表社員/公認会計士・税理士菊池 友博(きくち ともひろ)

茨城県下妻市生まれ。東北大学経済学部卒業後、2012年2月に有限責任監査法人トーマツへ入社。上場会社の会計監査や上場準備会社の株式公開支援、スタートアップ支援などに従事。2023年10月にタスキー税理士法人へ加わり、つくばオフィスの立ち上げに参画。2024年5月、タスキー税理士法人の代表社員に就任。

つくばスタートアップパーク コミュニティマネージャー/株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長堀下 恭平(ほりした きょうへい)

1990年熊本県熊本市生まれ、つくば市在住。筑波大学2年次にコミュニティカフェを創設・運営。全国60自治体以上の総合計画や総合戦略などの行政計画を策定。2016年にTsukuba Place Lab、2018年につくば駅前コワーキングup Tsukubaを創設し、2021年よりつくばスタートアップパークを運営。2024年に常陸多賀駅前 晴耕雨読を事業承継し、経営している。令和元年度茨城県知事表彰「新しいいばらきづくり表彰」産業振興を受賞。

聞き手:株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長 堀下恭平
※本インタビューでは、スタートアップとベンチャーを同義語として扱います

会社が少しずつ大きくなっていく。人が増え、できることも増えていく。それなのに、経理も、給与も、入退社の手続きも、気づけば社長の手元に残ったまま。会社が成長していくと、仕事の持ち方を見直すタイミングもやってきます。

ただ、何を、いつ、誰に渡せばいいのかは、簡単には決められません。相談できる相手を探すところから始まることもあります。

つくばで工場向けのロボットを開発する株式会社Closerの樋口翔太さんも、創業から数年で、仕事の持ち方を見直すタイミングを迎えました。そこで出会ったのが、同じつくばに拠点を置くタスキーグループの菊池友博さんです。

当時、社員が数名だったCloserは、この数年で30人ほどになりました。そのあいだに、樋口さんは何を手放し、菊池さんはどう受け止め、支えてきたのか。

聞き手は、株式会社しびっくぱわーの堀下恭平。手放した側と引き受けた側、その両方から、二社が重ねてきた数年をたどります。

01. つくりたいものから、必要とされるものへ

堀下

まずは、株式会社Closerがどんな会社なのかを教えてください。

樋口さん

筑波大学発のAIロボティクススタートアップで、主に工場や物流倉庫を自動化するロボットをつくっています。最近は工程特化型汎用ロボットと呼んでいて、一定の工程に特化しつつ、従来よりも汎用的に動くものです。

第1弾として動き出しているのが、段ボールを積み上げるロボットですね。積み上げるといっても、工場によって箱のサイズも違いますし、流れてくるものが時間帯で変わることもある。置ける場所が狭いこともあります。そういうところへ柔軟に入っていけるのが強みで、それをソフトウェアの力で実現しています。

従来は、ロボットを買って、産業用のパソコンを買って、タッチパネルを買って、どうにか組み合わせてオーダーメイドでつくっていました。弊社の場合は、独自のコントローラーに制御も画面からの入力も集約しています。

ロボットの社会実装で必要なのは、めちゃくちゃ尖った技術というよりは、成熟してきた技術をうまく取り込んで、現場で動くようにつくり込むことだと思っています。

堀下

少し創業前後のストーリーも、改めて教えてください。

樋口さん

もともと新潟の出身で、長岡高専を卒業して、2020年に筑波大学の大学院へ来ました。小学生の頃からずっとロボット開発が好きで、ロボカップというロボットの大会にも出ていたんです。

研究では農業の自動化などをやっていました。ただ、研究どまりで社会実装まで行けないことに、もどかしさを感じていて。まだ手作業でやっている仕事がたくさんあるのに、新しいロボティクス技術をもっといかせないのかと考えていました。

それをもとに実際に社会実装していこうとなったときに、つくば市のトライアル事業があって、採択いただきました。

ラーメン屋でアルバイトをしたり、高専の長期休みにスキー場のビュッフェで皿洗いをしたりしていて、こういうのは大変だなと思っていたんです。でも、ロボットがラーメンをつくったらおもしろいな、と。

そこから、最初の実証実験としてロボットカフェをやりました。安くつくったロボットがカップを取って、コーヒーマシンで注いで出す。

みなさん喜んでくれました。ただ、もともとやろうとしていたのは、大変な重労働を自動化することでした。でも、ロボットカフェについては、普通にコンビニのコーヒーマシンでいいなと思ってしまったんです。やりたいことを、ただやっていただけだったんだと、結構痛感しまして。

そのあと、食品工場を見に行く機会がありました。自動化を考えてもらえないかというお話で。行ってみたら、上場しているような大手企業の工場なのに、見渡す限り人がいて、ほとんど全部が人の手で作業されていたんです。

食品工場は、とっくに自動化されていると思っていました。実際はそうではなく、単純作業や大変な作業をされている方がたくさんいる。しかも人が集まらないので、生産量も増やしていけない。今の生産でもいっぱいいっぱいだと知って、衝撃を受けました。そこからやり始めたという経緯です。

堀下

そこから少しずつ、やり方をアップデートしながら積み重ねてきた今がある、という感じですね。

02. 偶然の出会いが、支援につながった

堀下

ここからは菊池さんにも伺いたいのですが、タスキーグループは、どんな機能を持った会社なのでしょうか。

菊池さん

現在はグループ5社、5拠点で展開しています。もともとは税理士法人から始まったグループですが、今は税務に加えて、社労士法人による労務支援や、バックオフィスのアウトソーシングまで行っています。

僕たちが目指しているのは、企業の管理面を部分的に支援することではなく、バックオフィス全体を支えられる存在になることです。特に、人手不足は多くの企業に共通する大きな課題だと感じています。そこに対して、専門家として助言するだけでなく、実務そのものを担うところまで支援したいと考え、事業を広げてきました。

堀下

樋口さんと菊池さんは、どんなところで知り合ったんでしたっけ。

菊池さん

つくばオフィスを開設したのが2023年の10月です。ちょうどその頃『TSUKUBA CONNÉCT』で樋口さんが登壇されている回がありました。話を聞いて「おもしろい会社だな」と思い、終了後に声をかけたのが最初です。

工場全体を自動化することは難しくても、小型で、生産ラインの一部だけを置き換えられる。そこがいいなと思っていました。

樋口さん

その日は、登壇が終わって、うちのメンバーとカキフライを食べながらお疲れさま会をしていたんですよ。そこへ菊池さんが声をかけてくださって。

堀下

当時は、会社が少しずつ大きくなり始めつつ、まだ樋口さん自身がいろいろやっていた頃だったんですよね。

樋口さん

そうですね。その頃は、自分を含めて社員が3、4人くらいでした。

税理士さんと社労士さんは、それぞれつながりのある方にお願いしていました。税理士さんに相談したことを社労士さんにも共有するなど、自分が間に入ってやり取りをしていて。もう少しスムーズにできないかなと思っていたところでした。

堀下

ちょうどいいタイミングでのお声がけだったんですね。

樋口さん

そうですね。タイミングはよかったです。

堀下

菊池さんは、支援する側としても、そのタイミングで入れたことは大きかったですか。

菊池さん

Closerさんの場合は、本当にちょうどいいタイミングでした。会社が成長し始めて「そろそろ経理の体制を整えたい」「社長が抱えている仕事も少しずつ手放したい」と考え始めるタイミングは、僕たちが一番支援に入りやすいフェーズです。

堀下

そこから実際に支援が始まったんですね。最初は何から入られたんですか。

菊池さん

最初から、フルパッケージでのご支援をさせていただきました。具体的には、支払処理代行や記帳代行といった経理支援に加えて、給与計算や入退社手続といった労務支援まで含めてご支援しています。

堀下

それまで別々にお願いしていた税理士さんと社労士さんの業務を、タスキーさんにまとめたような感覚ですかね。窓口が一つになると、やり取りもまとめやすくなりますよね。

樋口さん

そうですね。僕、そういうやり取りは苦手なので。

堀下

経理や労務をまとめてお願いできるところも含めて、比較的すぐ決めた感じですか。

菊池さん

最初にお話ししてから、ご支援が始まるまでは3か月くらいだったと思います。何度かお話しする中で、経理や労務をまとめて支援させていただくことになりました。

03. 返すところまで見据えた支援

堀下

創業初期のスタートアップだと、バックオフィスの経験がまだ少なかったり、税理士さんや社労士さんにどこまで何を頼めるのかわからなかったりすることもあると思っていて。

そういうときに、バックオフィスのことを一式受け止められるのは、タスキーさんの強みの一つですよね。ここはぜひ、もう少し聞かせてください。

菊池さん

そうですね。まず、社内に会計士や税理士、社労士など、それぞれ異なる専門性や経験を持ったメンバーがいることは、大きな強みだと思っています。経理や税務、労務といった領域を個別に見るのではなく、バックオフィス全体を横断して支援できる体制があります。

そのうえで、実際の業務をどう受けるかというところでは「パッケージ型BPO」と呼んでいるやり方を採っています。

一般的なバックオフィスのアウトソーシングでは、その会社ですでに使っている業務システムやデータの流れをなるべくいかしたまま「この作業を代行してください」というカタチで引き受けるケースも多いと思います。

一方タスキーでは、自分たちが効率的だと考えるシステムの組み合わせや、データの流れ、業務プロセスをあらかじめ標準化しています。基本的には、お客さまにもその型に合わせていただくようにお願いしています。

Closerさんも、自社で選定された業務システムを使われていましたが、支援開始にあわせて僕たちの標準的な業務フローに切り替えていただきました。

そうすることで、会社ごとに業務の進め方が大きく変わらず、担当者が変わっても一定の品質で業務を回しやすくなります。僕たち自身も、より効率的に支援できるようになります。

もう一つ大事にしているのが、バックオフィスの設計をできるだけシンプルにすることです。一般に提供されているクラウドサービスを組み合わせて、タスキーにしか扱えない仕組みは組み込まないようにしています。

それは、会社が成長してバックオフィスを社内で担えるようになったときに、業務をお返ししやすくするためです。たとえばIPOを目指すフェーズになり「これから経理は自分たちでやります」となれば、その部分は社内にお返しする。実際にそういうフェーズに入ったお客さまもいます。

堀下

ビジネスとしては、自社にしかできない領域を持っておきたくなるところですよね。

菊池さん

そうなんですけど、そこをあえて持たずに、シンプルにしています。

また、お客さまごとのやり方をそのまま引き受けたり、業務が複雑なまま引き受けたりすると、その会社で負担になっていたことを、今度は僕たちがそのまま引き継ぐだけになってしまいます。それでは根本的な課題解決にならないので、多少青臭くても「こういうカタチでやりましょう」と言い続けています。

堀下

上場を目指すスタートアップだと、いつかお返しするところまで見据えて支援パッケージをつくっている。そこまで見据えた支援のあり方は、タスキーさんの強みですよね。さらに、Closerさんのようなディープテックのスタートアップも、こうした支援の対象になってくる。

菊池さん

僕たちは、この事業を「ビジネスインフラ事業」と呼んでいます。

まだ会社の規模が小さい段階から、各社がそれぞれ経理や労務の専門人材を抱えるのは現実的ではありません。だからこそ、必要な機能を外部のインフラとして共同で使ってもらう状態をつくりたいと思っています。もう一つ、成長支援にも力を入れています。

まず、一番大事な「お金と人」の部分をインフラとして整える。そのうえで、会社がさらに成長していく段階では、IPO準備や資本政策のサポートなど、会社のニーズに合わせて支援を広げることができるのも、僕たちの強みだと思っています。

私自身、前職でIPOの支援などにも携わってきました。今はまだ必要なくても「この先このフェーズに進んだら、こういう準備が必要になります」といった先を見据えた話をさせていただくことも多いですね。

堀下

後方支援だけではなくて、必要なときには一歩踏み込んで支援できる。そこまで先を見据えてもらえるのは、スタートアップにとって大きいですよね。実際、樋口さんはどうですか。

樋口さん

一番最初は本当に何もなくて、自分でやっていました。社内のフローもない状態でした。

そこにタスキーさんが「このフォームに入力してもらえればやります」というカタチでフォーマットを用意してくださって。初期はそれでかなり楽になりました。

そこから1年ほどで正社員が15人ほどになり、この1年でさらに30人ほどになりました。そうなると、自分が片手間で対応するだけでは回らなくなってくる。そこに合わせて、また細かく対応いただいているのが現状です。

堀下

これからの話も聞きたいんですが、今後の企業成長で、樋口さんが今考えていることを、言える範囲で教えてください。

樋口さん

まず、最初のパッケージを、もっと使いやすいものにしていきたいと思っています。それと同時に、そこで得たノウハウを使った別のパッケージもつくりたいです。

ロボティクス技術が成熟してきたときに、それをプロダクトに取り込み、現場で使える製品に落とし込む。さらに量産して、きちんと届け、実際に現場で動くところまでやりきる。

良い技術をつくるプレイヤーは多くいますが、それを製品として現場まで届けられるプレイヤーは非常に少ない。そして、そこまでやりきることが、ロボットの社会実装において最も難しい部分だと思っています。今後は、この「技術を現場まで届けきる力」が、僕たちの強みになっていくと思っています。

また、自動化が進んでいない現場では、ロボットを扱える人材がいないことも大きな課題です。だからこそ、専門人材がいなくてもロボットを導入・運用できる仕組みが必要だと考えています。

そうした仕組みをつくり上げ、日本を代表するフィジカルAI・ロボティクスのスタートアップになれたらと思っています。

堀下

今の話を受けて、菊池さん、これからどんなサポートをしていきたいですか。

菊池さん

会社の成長段階に応じた支援は、これからも続けていきたいですね。

創業初期は、まず経理や労務など、お金と人にまつわる業務をきちんと回すところから始まりました。今は、決算をより早くまとめたり、人が増えたことに合わせて業務の進め方を見直したり、プロジェクトごとの収支をどう把握するかを考えたりする段階に来ています。

これからさらに会社が大きくなれば、上場を見据えた準備、資金調達やストックオプションなど、経営上のテーマも変わっていきます。Closerさんの成長に合わせて、僕たちの支援もアップデートしていきたいと思っています。

堀下

今言ったことを、まずはタスキーさんに相談できると思うと、心強いですね。内容によっては、別々の専門家に相談することもありますよね。

菊池さん

もちろん、内容によっては他の専門家を紹介することもあります。ただ、何か困ったときに「まずタスキーに聞いてみよう」と思ってもらえる存在にはなりたいですね。

僕たちには「LOCALから新たな価値を」という理念があります。スタートアップが、つくばにいながら、必要なノウハウやインフラにアクセスできて、会社を成長させていける。そういう環境をつくりたいと思っています。

おもしろいことに挑戦している人がいたら「それ、イイね」とおもしろがって応援できる。そういうつくばの空気づくりにも、タスキーとして貢献したいですね。

お二人の話で印象に残ったのは、仕事を抱え込まないという考え方でした。

樋口さんは、自分が担うことと、誰かに任せることを早い段階で分けました。苦手なやり取りは手放し、頼れる相手が見つかれば任せる。そんな判断を重ねてきました。

一方の菊池さんは、いつか返すことを前提に受け取っています。自社にしか扱えない仕組みをあいだに挟まず、一般に提供されているサービスを組み合わせる。会社が育ち、自分たちで担えるようになったら、その部分は返す。受け取った仕事を、いつか返せるようにしておく設計です。

そして、その関係は渡して終わりでも、受け取って終わりでもありません。Closerの人数が増え、会社が成長するにつれて、必要なバックオフィスの支援も変化してきています。これから先も、会社の成長段階に合わせて、任せること、返すこと、支えることを選び直していくことになります。

渡す側と受け取る側が、同じまちにいた。偶然の出会いから始まった関係は、会社の成長に合わせて、少しずつ関わり方を変えながら続いています。

菊池さんは、最後にこう話していました。

「おもしろい人を『いいですね』とおもしろがって応援できる。そういう環境に貢献したい」

みなさんの手元にある仕事のうち、誰かに相談したり、渡したりできるものはあるでしょうか。

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