新規事業のリスク相談から始まる共創。Bloom Actと東京海上日動が育てた関係
写真左から、屋代知行さん(つくば市)、増田芳夫さん(東京海上日動)、舟橋由佳さん(Bloom Act)
株式会社Bloom Act 取締役舟橋 由佳(ふなばし ゆか)
筑波大学卒業後、大手総合人材会社にて営業職に従事。人材不足や働き方をめぐる課題を現場で感じた経験から、2018年に仲間と株式会社Bloom Actを創業。現在、オンライン商談システム「ROOMS」と資料動画化サービス「SPOKES」を軸に、企業や自治体のDX支援に取り組んでいる。
東京海上日動火災保険株式会社 茨城支店エリア戦略推進チーム増田 芳夫(ますだ よしお)
大学卒業後、東京海上日動火災保険㈱に入社。現在に至るまで東京・名古屋などの国内営業部門に所属。同社は1879年の創業以来、「お客様と社会の”いつも”を支え、”いざ”をお守りする」というパーパスのもと、保険を通じてお客様に安心と安全をお届けしてきた。今後も、多様化するニーズに応えるために、従来の保険領域に留まらず、保険以外の新たなソリューションも提供していくことで、持続的な成長を目指している。
つくば市 政策イノベーション部 スタートアップ推進室 室長屋代 知行(やしろ ともゆき)
つくば市出身。民間企業の研究部門を経て、2006年につくば市役所へ入庁。経済産業省への出向や政策企画、防災、シティプロモーションなどを経験し、現在はスタートアップ推進室 室長を務める。スタートアップと研究者、企業などがつながり、新たな挑戦が生まれる環境づくりに取り組んでいる。
聞き手:つくば市スタートアップ推進室 室長 屋代知行
※本インタビューでは、スタートアップとベンチャーを同義語として扱います
いいサービスをつくっても、届けたい相手と出会えなければ広がっていかない。多くのスタートアップが、どこかで向き合う壁です。
つくば市は2025年度、第2期つくば市スタートアップ戦略の中間見直しを進めました。その議論を通じて、あらためて見えてきたのが市役所の役割です。研究成果を事業にしていく0から1の段階を支えること。そして、スタートアップの技術と大手企業などの力が組み合わさり、イノベーションという新しい価値が生まれる土壌をつくることです。
そのヒントになる協業が、つくばにあります。オンライン商談システム「ROOMS」を提供する株式会社Bloom Actと、東京海上日動火災保険株式会社です。始まりは、サービス公開前のサイバーセキュリティに関する保険の相談でした。保険の相談から始まった関係は、なぜお客様の課題を一緒に考える関係へと変わっていったのでしょうか。
01. 保険の相談が、共創の入口に
屋代
舟橋さん
私ども株式会社Bloom Actは2018年7月に創業して、今年で丸8年、ちょうど9年目を迎えています。創業メンバーには土浦やつくばの人間がいて、東京ではなく地元の茨城で会社をつくろうと始めました。
もともとは人材業界の出身者が多く集まっていて、労働人口の減少といった問題を、まさにその業界で目の当たりにしてきたんです。募集を出し続けるだけでは、もう日本の労働を支えることは難しい。そう実感したことから、働き方をそもそも抜本的に変えるデジタルのサービスを、自分たちの手でつくって届けたいと考えました。
真っ先に取り組んだのが、事業活動のなかでも特に時間のかかる営業です。その時間をなんとか短くできないかと、オンライン商談システムの開発から着手しました。いまはそのROOMSと、資料を動画にするSPOKESの2つを軸に事業を展開しています。
屋代
増田さんにも、東京海上日動さんの茨城での体制と、いま力を入れていることをうかがえますか。
増田さん
弊社は自動車保険や火災保険といった損害保険の販売をメインにやってきた会社で、茨城では、つくばと水戸に拠点を構えています。保険は、何かが起きた後にお役立ちする備えが中心でした。
ただ、業界の規制緩和を背景に、これから事業を永続的に進めていくには、何かが起こる前の平時の備えにもご支援できないかと考えるようになりました。そこで近年は、保険商品の販売だけにとどまらず、いろいろな事業会社と組んで、企業様や地域の課題解決につながる取り組みに特に注力しています。
スタートアップ企業様は、まさに社会課題解決の最前線だと認識しています。その技術や発想を弊社の営業に組み込むことで、より大きなうねりを持って地域の課題解決につながるのではないか。そういう発想で、つくばでもつくばスタートアップパークにお邪魔して、どんな事業者さんがいらっしゃるのか、日々勉強させていただいています。
屋代
保険会社とスタートアップ。一見すると、接点が見えにくい組み合わせにも思えます。両者の出会いは、そもそもどこから始まったのでしょうか。
舟橋さん
実は、販売よりももっと手前の段階なんです。自分たちでサービスをつくり、いざ世に出そうと準備をしているなかで、ITサービスを売っていくなら、セキュリティのインシデントや、お客様に損害を与えてしまうリスクにも備えなければなりません。そうしたリスクに備えるため、保険への加入も検討することになりまして。そのときに東京海上日動さんのサイバーセキュリティ保険の存在を知り、リリース前に相談したのが最初の接点でした。
保険料を算出していただくには、どんなサービスで、売上がどのくらい立つ見込みなのかを説明して、事業をご理解いただく必要があります。そのお話をしているなかで、当時の茨城南支社長様がサービスに関心を持ってくださって。そこから、保険にとどまらない交流が始まりました。
屋代
当初は保険の相談だったところから、Bloom Actさんの事業そのものにも関心が広がっていった。その背景には、東京海上日動さんのなかでどんな変化があったのでしょうか。
増田さん
通常は、業種や売上高など、保険を設計するのに最低限必要な情報を確認させていただきます。従来の弊社であれば、事務的に見積もりを出して、もしかしたらそこで終わっていたかもしれません。
ただ当時はちょうどコロナ禍の前後で、弊社のなかでも、お客様や保険代理店さんとの接点のデジタル化、営業活動の高度化を検討する機運が高まっていました。正直、リアルな対面の営業が中心だった業界なので、これまでのやり方ではなかなか厳しいんじゃないかという声が、社内でも上がっていた時期です。
そんな時期にBloom Actさんからお問い合わせをいただき、事業内容を拝見するなかで、弊社のなかにとどまらず、我々のお客様にも提供するとおもしろいんじゃないか、という発想が出まして。保険のご相談対応だけでなく、より踏み込んだ連携をこちらからもご相談させていただいたと聞いております。
屋代
舟橋さんにとっては、保険の相談に行った先で、そんな反応が返ってきたこと自体が印象的だったのではないですか。
舟橋さん
すごくありました。誰もが知っている大手企業様が、単に、いいサービスだからお客様に紹介するという話ではなく、日々お客様と接するなかで聞いている課題を、保険の販売にとらわれずに解決していきたいとお話しくださったんです。お客様のためにいいサービスがあれば紹介したいという純粋なお気持ちに、すごく感銘を受けました。
ベンチャー企業だったら、そういう気持ちがあるのもわかるんです。でも、これだけ大きな会社なのに、こんなに意欲的に取り組まれているんだと。私たちはまだ実績もほとんどなくて、お客様にどこまでお役立ちできるのか、わからないなかでした。それでも、そのお気持ちや期待にできるだけ応えたいという思いで、当時やらせていただいたのを覚えています。
02. 使う人の声が届くまで
屋代
保険の相談から始まった関係が、ROOMSを広げる動きにつながっていきます。紹介先のお客様や代理店の反応は、いかがでしたか。
増田さん
弊社にはいろいろな業種の保険代理店が全国にありますが、なかでも自動車ディーラーに注力して、ROOMSをご紹介できないかと体制を組みました。自動車ディーラーは、弊社の保険代理店でもあり、お客様でもあるんです。
紹介先からは、導入までのハードルが低いことや、ITツールに慣れていない方でも簡単に接続できるといった機能面を評価する声が多く届きました。特に、従来の商談をいかに効率化するかという課題を抱えていたディーラーさんには、そうした使いやすさが受け入れられたと感じています。実際に使っている営業担当の方からは、商談を効率化するツールにとどまらず、結果的にコミュニケーションの質の向上にもつながっているという声もいただいています。
屋代
新しいツールは、導入しても現場になじまなければ、かえって負担になることがあります。ROOMSでは、無理なく使い続けられることも、最初から意識していたのでしょうか。
舟橋さん
おっしゃる通りです。便利であることはもちろん大事ですが、導入した後も無理なく使い続けられるかどうかが、本当はDXのいちばん大事なところなんです。使いやすさも含めて、無理なく自然に使えるツールを一番に目指していたので、そうしたお声をいただけたのは本望です。
たとえば山間部のお客様もいらっしゃる広い地域のディーラーさんでは、ご来店いただくだけで1時間、2時間かかることもあります。オンラインならお客様が来やすくなり、営業との接点が非常に取りやすくなったと伺いました。来店の時間を確保しようとすると、どうしても土日に集中してしまっていたのが、自宅にいながらすぐつながれるなら、平日の仕事終わりなどに分散できます。スタッフさんにとっても、業務を分散できるメリットがあったと伺っています。
屋代
サービスの初期は、使い勝手について「もう少しこうしてほしい」という声も集まると思います。そうした現場の声は、Bloom Actさんにどのように届いていたのでしょうか。
舟橋さん
私たちは仮説ベースでサービスをつくって世の中に出したので、お客様の声が入る接点そのものが少なかったんです。そこで、東京海上日動さんの現地の営業さんがディーラーさんに伺ってくださって。私たちはオンラインで話し、現地では営業さんがお客様のフォローをしたり、お声を拾ったりして、それを私たちにフィードバックしてくださいました。
メンバーもそんなに多くなく、営業のリソースも非常に少ないなかで、全国のお客様の現地に出向くのは、時間的にもリソース的にも難しかったんです。いる場所はそれぞれ違いながらも、お客様と東京海上日動さんと私たちで、お客様にとって良い体制をつくれた。本当にありがたかったなと思っています。
増田さん
弊社の中では、基本動作じゃないですけども、現地は現地で、なるべく可能な限りリアルで動くようにはしております。弊社とは別の連携事業者さんのソリューションをご紹介するときこそ、営業として、ディーラーさんやお客様に存在意義を示さなければいけないという基本スタンスがあります。ですから、任せていただいたほうが、弊社の営業の動きとしても非常に助かる面があるんだと思います。
屋代
一方で、現場からさまざまなフィードバックが届くことに、プレッシャーを感じることはありませんでしたか。
舟橋さん
どちらかというと、プレッシャーよりは期待そのものだと受け止めていました。声が出るということは、そのサービスを使ってくれている証拠でもあるんですよね。まったく使ってくれていなかったら、たぶんどんな声も出てこない。声が出るのは、ちゃんと現場で使ってくださっている証拠でもあるんだなと、結構うれしかったですね。
03. つくばで広がる、次の共創
屋代
大きな会社とスタートアップが組むことで、それぞれどんなよさを感じていますか。
増田さん
いちばん強く感じるのは、取り組みのスピード感と柔軟性です。弊社のような企業だけでは実現が難しいスピード感で、新しい価値を生み出していける。それが、Bloom Actさんのようなスタートアップと協業する魅力なんだと、今回の経験を通じて強く感じています。
舟橋さん
私たちは単純に、お客様に良いサービスを提供できたと思ってもらえたらうれしいんです。お客様との接点を持てていないなかでスタートした会社なので、課題を目の当たりにされている東京海上日動さんからお声をいただけること自体が、本当にありがたかった。お互いの強みをどうやったらいかせるかに集中できたのは、私たちにとって非常にありがたい部分でした。
屋代
つくば市も昨年度、SPOKESを導入しました。会社を構えるつくば市で導入されたことを、どう受け止めましたか。
舟橋さん
SPOKESも、自治体さんに向けてリリースしたサービスではないんです。ただ、話すということをDXするという意味では、どこの業界でも使ってもらえると思っていて、なかでも自治体さんにはぜひ使ってほしいと、リリースのときからすごく思っていました。繰り返し説明する場面はたくさんあるのに、来庁している時間でしか接点を持てないのは、お互いにとってデメリットだなと。
ただ、スタートアップが自治体さんのプロポーザル(公募型の提案)や入札に参加するのは、結構ハードルが高いですし、期間も長い。最初の一歩が難しいなと思っていたんです。そのなかで、自分たちの会社があるつくば市さんに使っていただけた。会社を置く自治体さんの役に立てていることと、自治体さんでの最初の1本をつくれたこと。両方の意味で、会社として本当にうれしい事例でした。
屋代
つくば市としても、地元の企業だから導入したわけではなく、実際に必要としていたツールだったから導入しました。スタートアップのみなさんにとっても、自分たちのサービスと相手が抱える課題との接点を見つけることが、協業の入口になるのだと思います。
増田さん、Bloom Actさんとの協業を経て、今年度は茨城で新しい取り組みも始めていますね。
増田さん
Bloom Act様との協業を通じて、スタートアップさんとの連携が新たな価値の創出につながることを実感しています。たとえROOMSの導入につながらなくても、お客様や保険代理店に、今までご提案できなかったソリューションをご提案すること自体が、弊社の付加価値の向上につながっています。この協業は、私たちのなかで大きな財産になっています。
そのうえで今年度、茨城支店では社内のプロジェクトリクエスト制度を活用して、つくばのスタートアップさんとの新たな協業を探る取り組みを進めています。所属部署の仕事を担いながら、一定の割合で他部署のプロジェクトに参画できる制度です。スタートアップとの協業に取り組みたいと手を挙げた意欲的なメンバーが、茨城支店以外からも加わっています。
屋代
最後に、つくばへの期待と、これからの取り組みを聞かせてください。
増田さん
引き続き、社内の制度を活用しながら、Bloom Act様との協業のような事例を、つくばでほかにも数多くつくれるよう取り組んでいきます。つくば市様にも、ぜひサポートをいただければと思っております。
舟橋さん
つくば市さんには、逆にこれから恩返しをしていきたいと思っています。まだまだベンチャー企業として挑戦を続けている途中ですが、当時よりは、お返しできることも増えてきたかなと思っていて。つくば市の支援を受けながら歩んできた会社のひとつとして、これまでの経験をお伝えできるようになってきました。
つくばには、チャレンジする企業が多くあります。これからもいろいろな会社がつくばから生まれ、発信されていったらすごくうれしいですし、私たちも一緒に取り組めることがあれば光栄です。ひとつの事例として、役に立てるところがあれば非常にうれしいなと思っています。
屋代
ぜひ、つくばスタートアップパークでも定期的にイベントをご一緒できればと思います。本日はありがとうございました。
始まりは、サービスを世に出す前の保険の相談でした。事業を説明するやりとりのなかで、東京海上日動がBloom Actのサービスに関心を持ち、関係は少しずつ保険の枠を越えて広がっていきました。
全国の現場に足を運ぶ人手が限られていたBloom Actと、お客様のそばにいる東京海上日動の営業。現地で声を拾う人と、その声を受け取ってサービスを磨く人。それぞれの持ち場で同じお客様を向いていたことが、この協業を支えてきました。
つくば市が戦略の見直しであらためて描いたのは、スタートアップの技術と大手企業などの力が出会い、新しい価値が生まれる土壌です。今回の取材で見えたのは、その入口が、いつも大きな提携から始まるとは限らないということでした。保険の相談のような身近な接点が、相手の課題を知り、自分たちにできることを考えるきっかけになることもあります。
どんなカタチで組むのがよいかは、事業や相手によって異なります。それでも、自分たちの強みが、相手のどんな課題と接点を持てるのかを考えることは、次の関係をつくる最初の一歩かもしれません。
「声が出るのは、使われている証拠」。舟橋さんのこの言葉には、今回の協業を支えてきた関係性が表れています。現場の声を受け取り、それぞれの持ち場から応えていく。そんな積み重ねが、次の共創につながっていくのかもしれません。
[つくばスタートアップパークに相談する]
起業や経営にまつわる悩みを、気軽に相談できます
[つくばのスタートアップイベントに参加する]
つくばのエコシステムを体感できるイベントを定期開催しています
スタートアップが挑戦し、成長し、世界へ飛び立つ旅の物語
“つくばスタートアップジャーニー”
未来のための、あなたの旅の仲間はここにいます。
つくば市で創業されたBloom Actさん。どんな思いで始まった会社なのか、舟橋さんから教えていただけますか。