INTERVIEW インタビュー記事

技術支援から、ともに事業を考える場所へ。茨城県産業技術イノベーションセンターが重ねてきた学びと変化

茨城県産業技術イノベーションセンター イノベーション戦略部 新ビジネス支援グループ長石川 章弘(いしかわ あきひろ)

美術大学を卒業後、茨城県の技術支援機関へ。結城紬の図案や食品パッケージなどのデザイン支援、スマートフォンアプリのプロトタイプ作成支援、地場産業工芸品の商品企画などに携わる。所内の連携を担う部署では、IoT/食品棟の新設や精密測定室改装などの企画にも関わった。現在は、新事業構想の支援やビジネスプラン構築研修の運営を担い、企業の事業づくりに伴走している。

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事尾﨑 典明(おざき のりあき)

2004年、九州工業大学大学院工学研究科を修了。コンサルティング会社で企業の新事業・新商品開発を支援したのち、2009年にエスファクトリーを創業。企業や自治体、NPO、スタートアップに対し、業種や事業の段階を問わず、それぞれの課題に応じた事業開発支援を行っている。現在は、筑波大学国際産学連携本部客員教授を務めるほか、NEDO、JAXA、JAMSTEC、中小企業基盤整備機構などのスタートアップ支援事業で、スーパーバイザーやアドバイザーを務める。茨城県産業技術イノベーションセンターには、コワーキングスペースやビジネスプラン構築研修の立ち上げ期から関わり、企業の事業づくりとセンター職員による伴走体制の構築を支えている。

つくばスタートアップパーク コミュニティマネージャー/株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長堀下 恭平(ほりした きょうへい)

1990年熊本県生まれ、つくば市在住。筑波大学2年次にコミュニティカフェを創設。全国60自治体以上の行政計画を策定し、Tsukuba Place Lab、up Tsukuba、つくばスタートアップパーク、常陸多賀駅前 晴耕雨読を運営。令和元年度茨城県知事表彰(産業振興)を受賞。

聞き手:株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長 堀下恭平
※本インタビューでは、スタートアップとベンチャーを同義語として扱います。

新しい事業を考えたい。けれど、まだ計画と呼べるほどには整理できていない。そんなとき、どこに相談し、誰と考え始めればよいのか。

茨城県産業技術イノベーションセンターは、分析や測定などの技術支援に加え、企業の新たな事業づくりにも伴走しています。

企業とともに新たな事業を考えるために、センター職員もメンターとの対話や現場での実践を通じて、支援の方法を学び、少しずつ役割を広げてきました。現在、新ビジネス支援グループ長を務める石川章弘さんも、その歩みを重ねてきた一人です。

技術を支えてきた県の機関は、企業との対話を通じて、どのように事業づくりへと支援の幅を広げてきたのでしょうか。

株式会社しびっくぱわーの堀下恭平が、石川さんと、立ち上げ期から外部伴走者として関わってきた一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ副代表理事の尾﨑典明さんに聞きました。

「気づかないと変われない。気づくためには、まず学びが必要です」

石川さんの言葉の背景には、企業と向き合うなかで、支援する人や仕組みも、ともに学び、変化してきた時間がありました。

01. 技術支援の現場から、新たな事業支援が始まるまで

堀下

まず、茨城県産業技術イノベーションセンターが、もともとどのような役割を担ってきた機関なのか教えてください。

石川さん

前身は、茨城県工業技術センターです。現在も公設試験研究機関として、製造業のみなさんから依頼を受け、部品の寸法や材料の強度を測ったり、付着物を化学的に分析したりしています。企業による設備の利用や共同研究に加え、センターが主体となる先導的研究にも取り組んでいます。

今いるこの部屋も、もともとは電波暗室でした。電気製品から生じる電磁波を測定したり、電磁波の影響で製品が誤作動しないかを確かめたりする場所です。電波暗室の設備が別の場所へ移ったあと、空いた空間をコワーキングスペースとして使うようになりました。現在は、企業のみなさんが新しい事業について相談したり、支援者と一緒に考えたりする場になっています。

2016年度には、IoT/食品棟の企画に携わりました。当時は所内の取りまとめを担う連携グループに所属し、現在の副センター長たちと部屋の構成を考え、予算の確保まで担当したんです。建物が竣工したのは2018年3月。同年7月には、センターの名称も現在の「茨城県産業技術イノベーションセンター」へ変わりました。

2017年9月に知事が就任し、12月の視察のなかで、依頼を受けて分析するだけでなく、企業の新しい事業づくりも支援してはどうかという話がありました。当時のセンター長らがほかの機関を視察しながら、コワーキングスペースやビジネス創出事業の検討を進め、2019年3月にコワーキングが出来、4月から、現在の新ビジネスチャレンジ事業の前身の「次世代技術活用ビジネスイノベーション創出事業」が始まりました。

堀下

尾﨑さんも、コワーキングスペースができる頃から関わっていたんですよね。

尾﨑さん

そうですね。国の予算を活用した事業のなかで、富士通のみなさんやセンターと協力しながら、事業の仕組みや、この場のいかし方を考えていました。

公設試験研究機関は、分析や測定、技術評価などを通じて企業を支えてきた機関です。茨城県産業技術イノベーションセンターでは、従来の技術支援に加えて、情報発信やオープンイノベーション、助成金の相談など、事業に関することまで支援の幅を広げようとしていました。

この場所をいかし、地域の企業と関係をつくりながら、一緒に事業をつくっていける拠点にしていこう。立ち上げの頃は、センターのみなさんや関係者と、手探りでその仕組みを考えていました。

02. 企業と向き合いながら、支援する側も学んでいく

堀下

石川さんは、もともとどのような仕事をしていたんですか。

石川さん

うちの職場では少し珍しい職種というか、美術大学出身で、結城紬の図案などデザインに関わる仕事をしていました。その後、2019年に新ビジネス支援グループへ配属されたんです。

配属された当時は、そもそもビジネスモデルという言葉の意味すら分かりませんでした。

堀下

技術支援を中心にしてきた現場にとって、企業の事業づくりまで支援するのは、新しい挑戦だったんですね。

石川さん

本当にそうです。私はデザインの仕事をしていたので、マーケティングに近い感覚は多少ありました。ただ、企業の方とどのように事業をかたちにしていくのかは、現場で学んでいく必要がありました。

そのため、最初の一年は、企業のみなさんとメンターのやりとりをじっと見ながら、そこで何が行われているのかを理解しようとしていました。

2020年には、この事業で行われているのは、知識を一方的に教わる「学び」とは違うのではないかと考えるようになりました。企業とメンターが打ち合いながら、その場で事業をかたちにしていく。答えを教わるのではなく、一緒につくっていくものなのではないか、と。

2021年には、企業のみなさんとの対話にも少しずつ加われるようになりました。一応、入り口に立てたくらいの感覚です。このプログラムは、参加企業だけでなく、私たち職員にとっても学びの場になっています。

自分でも関連する本を読みました。ビジネスモデルキャンバスを紹介する人もいれば、別のフレームワークを紹介する人もいる。それぞれが違うものなのか、共通する部分があるのかを知りたくて、読み比べていったんです。

そうして比べてみると、使う言葉や手法は違っても、言っていることの根には共通するものがあると分かってきました。

堀下

いや、真面目ですね。一つひとつ確かめながら、段階を踏んで理解していったんですね。

03. 完成したプランがなくても、事業づくりは始められる

堀下

改めて、ビジネスプラン構築研修の内容を教えてください。

石川さん

ビジネスコンサルと県立の技術支援機関である私たちとともに、企業のビジネスプランを実践的に構想する場です。

研修期間は、9月から翌年2月までの全8回です。前半のプログラムには20名程度が参加し、最初の2回で、ビジネスモデルや自社の強み、顧客、知的財産、収支計画など、事業づくりの基礎を学びます。

DAY3では、それぞれが考えた事業アイデアを発表。その内容などを参考にした選考を経て、12名程度が後半のプログラムへ進みます。

DAY4以降は、グループでのメンタリングと発表を重ねながら、プランを磨いていきます。参加者同士が対等な立場で意見を交わし、互いの課題や可能性を見つけていく時間です。DAY6で中間発表、DAY8で最終発表を行います。

各グループには、メンター1名、センター職員のフォロワー1名、企業2〜3社が入ります。担当するメンターは途中で入れ替わるため、一つの視点に偏らず、さまざまな意見を受け取れます。集合日以外にも、ZoomやSlackを使って相談できる仕組みです。

堀下

座学を受けて終わりではなく、DAY1とDAY2でインプットしたら、DAY3ではもう発表する。選抜もしっかりかかっていく。設計に哲学を感じます。最初から現在のかたちだったのでしょうか。

尾﨑さん

最初は6日間、同じメンバーで最後まで走るかたちでした。ただ、受講する方のなかには、ある程度まで理解できればよい方もいれば、もっとつくり込みたい方もいます。

県の事業として間口は広くしたい。一方で、支援の質も高めたい。その両方を実現するため、途中で意向を確認し、後半へ進む方を選ぶ現在のかたちになりました。

石川さん

参加者同士の交流をもっと生かせないかという声もあり、今年も新しい試みを考えています。

堀下

プログラムのアップデートが日常というか、毎年あるのは素晴らしいですね。

石川さん

私たちの伝え方にも、改善すべきところがありました。事業が始まった頃は、私たち自身も支援のかたちを模索していて、「ビジネスプランをつくりましょう」という程度の案内にとどまっていたんです。

一般的な社員研修のように受け取られることもあり、内容や取り組む負荷を十分伝えきれていませんでした。現在はオンライン説明会を開き、講義を聞くだけではなく、自らプランを考え、発表やメンタリングを重ねるプログラムだと具体的に伝えています。参加前の期待と実際の内容をそろえることも、伴走の一部だと考えています。

尾﨑さん

DAYとDAYの間にもオンラインでの打ち合わせがあったりしますが、参加する方は本業も抱えています。負担の小さなプログラムではありません。

ただ、「思っていたものと違った」というところからでも、踏ん張って取り組んだ方は伸びていきます。

堀下

逆に言えば、そこを「耐える」ということではないですけど、その環境にコミットした方が、一歩、二歩と踏み込んで伸びていく。そんなイメージなんですね。

尾﨑さん

小規模事業者や中小企業、大企業の子会社、スタートアップまで、いろいろな方が参加します。

すべての企業が急成長を目指すわけではありません。持続的に売り上げを伸ばしたい企業もあれば、経営を立て直したい企業もある。大きな枠組みは同じでも、向き合う課題は企業ごとに違います。それぞれの状況に沿って、事業の組み方を一緒に考えます。

堀下

メンター陣は、それぞれ事業づくりの経験を積んできた方々です。その方々が一社一社に伴走していく。めちゃくちゃいいですね。

石川さん

業種や規模もさまざまなので、普段は知り合えない人が集まります。自分だけでは得られない視点に触れられることも、この研修の特徴です。

尾﨑さん

農業に携わる方とスタートアップ企業など、立場の違う参加者の間で、自然に連携が生まれることもあります。センターのみなさんにも間に入ってもらいながら、新しい関係ができています。

堀下

こうした偶然の出会いや連携は、スタートアップだけ、製造業だけと、同じ領域の人が集まる場では生まれにくいですよね。異業種交流会でも、名刺を交換しただけで事業につながるかというと、なかなか難しい。

ここには、自社の事業に何かしらの変化を持ち帰りたい人たちが集まっている。業種も企業の規模もばらばらだからこそ、新しい連携やアイデアが生まれるんでしょうね。

堀下

メンターの支援も、一人の担当者だけで完結するわけではないんですね。

尾﨑さん

各企業には一人の担当メンターがつきますが、メンター同士でも進捗や課題を共有しています。それぞれの専門性を持ち寄り、チームの総合力で支える仕組みです。

堀下

担当は決まっていても、「この課題なら、この人」という場面は絶対ありますもんね。

石川さん

メンターだけでなく、センターの職員もチームに加わります。研修の運営は新ビジネス支援グループが担い、ほかの部署の職員にもフォロワーとして企業のグループに入ってもらっています。企業の事業づくりに関わる経験を、職員自身の学びにもつなげたいと考えています。

堀下

最後に、お二人が記事を通じて伝えたいことを教えてください。

尾﨑さん

茨城県産業技術イノベーションセンターのことを、もっと知ってほしいですね。

私が見てきた範囲では、このセンターは、公設試験研究機関としては全国的にも珍しい存在だと思います。

技術の相談を待つだけでなく、自分たちから外へ出て、一緒に事業をつくろうとしている。センター職員もビジネスについて学びながら、企業と取り組んでいます。

外部の専門家による支援は、契約期間が終われば関係も一区切りになる場合があります。でも、公設試験研究機関が地域のアンカーになれば、企業がいつでも相談できる。担当者一人の範囲に閉じず、「ああでもない、こうでもない」と一緒に考えられる仕組みを、もっと地域の企業に知ってほしいです。

石川さん

ありがたいお話ですが、私たちとしては、まだまだ足りていないという気持ちもあります。目指す状態に近づくために、職員も学んでいかなければいけません。

加工業のみなさんにも、もう少し来ていただきたいですね。私たちの軸足は製造業や加工業の技術支援にあり、研修をきっかけに共同研究へつながることもあります。

同じ業種だけで集まる場とは違い、これまで出会ったことのない人に会えると思うんです。自社のプランができていなくても、気づきは得られます。気づかないと変われないので。

堀下

「気づかないと変われない」。めちゃくちゃいいフレーズですね。

石川さん

気づくためには、まず学びが必要です。学んで、気づいて、変化していけるので。

企業の新しい事業づくりを支える側もまた、企業やメンターとの対話から学び、支援の幅を広げてきました。石川さんが「まだまだ足りていない」と語るように、センター職員も学び続けています。研修の仕組みや伝え方も、参加者の反応を受けながら更新されています。

研修終了後には、補助金の相談や共同研究などでセンターを活用する参加者もいます。事業の考え方を学ぶ支援と、技術を検討する支援が同じセンターにあるからこそ、プランをまとめたあとも相談を続けられます。外部の専門家だけに任せるのではなく、センター職員も相談を受け、必要な専門性を持つ人へつなぎながら企業と一緒に考える。地域にあり続ける機関に、関係と知見が積み重なっていくことも、この取り組みの価値です。

参加するのは、急成長を目指すスタートアップだけではありません。既存事業を見直したい企業、持続的に売り上げを伸ばしたい企業、新しい事業の柱を探す企業もいます。企業ごとに現在地や目指す先は違っても、「何かを変えたい」という思いを持ち寄り、異なる業種や規模の人たちと事業を考える。その過程から、一社だけでは得られなかった視点や関係が生まれています。

会社にある技術や経験、お客さまから寄せられた困りごと、まだ言葉になっていない違和感。新しい事業の始まりは、いずれかを誰かに話してみることなのかもしれません。

ビジネスプラン構築研修では、完成した計画がない段階から、事業のアイデアを整理していくことができます。

研修の対象や内容、申込方法は、「ビジネスプラン構築研修」の詳細ページから確認できます。なお、応募者多数の場合は、申込内容をもとに審査を行うため、ご参加いただけない場合があります。

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