INTERVIEW インタビュー記事

安心と挑戦を支え、アントレプレナーの無限大の創造力を引き出す

株式会社日本政策金融公庫 北関東信越創業支援センター 所長高田 美奈(たかだ みな)

2004年、国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)入庫。神戸支店、大阪西支店、五反田支店、さいたま支店にて融資審査・企業支援に従事。2008年からの4年間は、ODA(政府開発援助)による開発途上国に対する技術協力として、小規模事業者への融資審査ノウハウを現地の金融機関に伝える国際協力活動にも従事するなどグローバルな経験も併せ持つ。2023年4月より現職。北関東・信越地区(茨城・栃木・群馬・埼玉・長野・新潟)6県にてセミナー等、創業に関する情報発信のほか、日本公庫主催「高校生ビジネスプラン・グランプリ」エントリーに向けた高等学校での出張授業など起業家教育にも取り組んでいる。

筑波大学 情報学群 知識情報・図書館学類 3年次編入予定塚本 康介(つかもと こうすけ)

埼玉県出身、高三次、日本政策金融公庫高校生ビジネスプラン・グランプリにて入賞後、株式会社ガイアックス新規事業立ち上げ期に参画し、同社のアントレプレナーシップ教育に関わる業務に従事。また同時期に創業5ヵ月目の六興実業株式会社にて新規の法人営業を担当。創業期のスタートアップの成長過程を現場から経験。2026年度より筑波大学情報学群へ編入。

株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長堀下 恭平(ほりした きょうへい)

1990年熊本市生まれつくば市在住。東日本大震災を機に筑波大学2年次にコミュニティカフェを創設運営。下妻市や水戸市、横浜市などの商店街活性化に参画した後、行政計画策定支援で最初の起業し以降8社起業経営参画。全国60自治体以上の総合計画や総合戦略などの行政計画を策定。まちづくりとスタートアップ支援を中心に年間1,500件以上のイベント企画運営登壇。2016年あらゆる挑戦を応援する場Tsukuba Place Lab創業、2021年つくばスタートアップパーク運営、2024年常陸多賀駅前 晴耕雨読を事業承継し経営。令和元年度茨城県知事表彰 新しいいばらきづくり表彰 産業振興 受賞。

聞き手:株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長 堀下恭平
※本インタビューでは、スタートアップとベンチャーを同義語として扱います

筑波研究学園都市から生まれる多くの研究成果は「ディープテック」と呼ばれ、そのポテンシャルは世界中から注目を集めています。一方で、研究者自身が学術界から産業界へと向かう道程は、スピード感や文化面などで大きな違いがあり、とても険しいものと聞きます。そこを乗り越えるためには、ハード/ソフト両面での産業界のサポートが欠かせません。
今回は、株式会社日本政策金融公庫(以下「日本公庫」)の高田さんと、その日本公庫が主催する第11回高校生ビジネスプラン・グランプリ(2023年度)でベスト100に入賞した当時の高校3年生で来年度から筑波大学に3年次編入学が決まっている塚本さんをお迎えして、アイデアや創造力を実際のビジネスに落とし込むために困難だったことや、日本公庫を含むスタートアップ・エコシステムの活用についてお話しします。

01. セーフティネットの“安心”とリスクテイク機能の“挑戦”の両輪

堀下

高田さん、塚本さん、よろしくお願いいたします!

高田
塚本

よろしくお願いいたします!

堀下

まずは高田さんにお伺いします。日本公庫といえば「中小企業や小規模事業者を支える金融機関」というイメージが強いですよね。そんな日本公庫が高校生を対象にしたビジネスプラン・グランプリを立ち上げた背景を教えていただけますか?

高田

日本公庫は、中小企業・小規模事業者などの資金繰りを支えており、「安心と挑戦を支える」ことが使命です。ただ、一層の挑戦を後押しするため「次の挑戦者をどう育てるか」が欠かせないと考えるようになりました。
高校生ビジネスプラン・グランプリの最大の目的は、起業家教育です。ビジネスプランの作成を通じて「自ら考え、行動する力」を養うことが、まさに“先行きが不透明で将来の予測が困難な”これからの時代を生き抜くための力になると信じています。

海外に目を向けると、高校や大学での起業家教育は当たり前になりつつあります。10代からアイデアを形にし、試して、失敗して、そこから学ぶ。それがキャリア選択の一部になっている国もあります。一方、日本ではまだ「起業は特別な人のもの」という意識が強い。だからこそ、私たちが社会的役割として「挑戦の場」をつくる必要があると考えたのです。

堀下

なるほど。金融機関が「教育」に踏み込むのはユニークですよね。

高田

そうかもしれません。でも、金融支援は単に「お金を貸す」だけではありません。資金を供給するということは、その人の挑戦を支えるということです。ならば、「挑戦の場」を提供することも、私たちの使命の一部だと思っています。

さらに、「挑戦の場」を使ってもらえたら、今度は「挑戦」を持続させるためのツールとして「エクイティ」だけでなく「デット」ファイナンスの選択肢も知ってほしい。スタートアップにおける資金調達では、「デット」と「エクイティ」をどう組み合わせるかが非常に重要です。「エクイティファイナンス」として株式を発行し続ければ、創業者の株式比率が希薄化し、経営の自由度が下がる。だからこそ、あるタイミングで「デットファイナンス」の活用を検討することに意味があります。

堀下

たしかに。「借金=リスク」と短絡的に考えるのではなく「挑戦を持続させるためのツール」としてデットを位置づける視点は大切ですね。

高田

そうなんです。私たちは、返済能力だけでなく「なぜこの挑戦をするのか」「どんな未来を見据えているのか」というストーリーも重視します。たとえば、ある研究者が新しい材料技術を社会実装しようとするとき、その研究者の熱意や社会的な意義を理解した上で資金を届ける。そのような “伴走者”に近い存在でありたいと思っています。

堀下

いい言葉ですね、“伴走者”。スタートアップにとって「理解してくれる金融機関」があること自体が大きな安心になります。まさに「安心と挑戦の両輪」ですね。

02. 高校生ビジネスプラン・グランプリとアントレプレナーとしての成長

堀下

ここからは塚本さんに伺います。グランプリに挑戦したきっかけは何でしたか?

塚本

最初は正直、悔しさでした。高校時代に別のコンテストに出たのですが、結果は振るわず。でもそのとき「アイデアを考えること自体はすごく楽しい」と思えたんです。その気持ちが残っていたのと、日常的にあったらいいのになと思う機会が多々あって、学校でグランプリのチラシを見たときに「もう一度挑戦してみたい」と思いました。

堀下

再挑戦の原動力になったんですね。

塚本

はい。実際に応募してみると、自分のアイデアを整理し、人に説明するだけでも大変でした。けれど、つくば市の講座(日本公庫共催「高校生のためのビジネスプラン作成講座」)に参加して先輩起業家の方々からアドバイスをいただいたのは大きな転機でした。たとえば、「売り上げが入ってくる仕組みなのか」「ビジネスとして今すぐとりのぞきたい課題なのか」という質問を受けて、自分が見えていなかった視点に気づかされました。

堀下

やっぱりリアルに対面して話すことで得られる気づきって大きいですよね。

塚本

そうですね。講師の方々は本当に真剣に向き合ってくださって「高校生だから」ではなく「一人の挑戦者」として扱ってくれました。その姿勢にすごく勇気づけられました。ありがたいことに、高校生ビジネスプラン・グランプリでベスト100をいただき、発表の機会を得られたのですが、その後見ず知らずの社会人の方々から15件以上もの応援メールをいただいたんです。「ビジネスプランとしても可能性を感じられる」「将来一緒に仕事しよう」と言ってくださる方もいて、自分の中でスイッチが入りました。

高田

グランプリは今年度で13回目を迎えますが、参加者の変化は本当に顕著です。最初のころは高校の授業の一環として出しているプランが中心でした。ところが、今では探究活動や理系研究をもとに、生徒主体で応募するプランも増えてきています。さらに、在学中に起業する高校生も出てきています。

堀下

在学中に起業!素晴らしいですね。

高田

ええ。たとえば地方の高校生がオンラインでサービスを立ち上げたり、クラウドファンディングを活用して資金を集めたり。私たちが想定していた以上に行動が早いんです。若い世代のアントレプレナーシップは確実に高まっています。

堀下

塚本さんもそうした流れのなかで、まさに“芽”が育っていると感じますね。

塚本

はい。自分の中でも「やってみたい」から「やるのが当たり前」へと意識が変わったと思います。

03. 人が人をつなぐ縁、エコシステムとしてつながっていく縁

堀下

塚本さんにとって、グランプリの経験はその後の挑戦にどう影響しましたか?

塚本

一番大きいのは「挑戦が日常になった」ことです。インターンやピッチイベントなど、迷ったときに「やってみよう」と自然に思えるようになりました。グランプリで得た自信と仲間とのつながりが背中を押してくれています。

堀下

仲間や先輩起業家との出会いも大きかったのでは?

塚本

そうですね。高校生のときは「起業する人なんて遠い存在」と思っていたのですが、実際に先輩起業家に会って話すと「自分にもできるかもしれない」と思えるんです。近くにそういう人がいることは本当に心強いです。日本公庫さんにはもちろんのこと、つくばスタートアップパークで毎週水曜に開催されているスタパイベントでも学び繋がる機会をいただいています。そこで出会ったスタートアップでインターンをし、スタートアップ支援会社でも働く機会を得ました。

高田

私たちもフォローアップには力を入れています。もちろん全員を追いかけることは難しいですが、可能な限り声をかけたり、地域の支援機関や大学とつなげたりしています。たとえば、グランプリをきっかけに地域のインキュベーション施設で活動するようになった高校生もいます。地域の関係機関との連携を活かして、挑戦を次のステージに引き上げていく仕組みをつくっていきたいと思っています。

堀下

日本公庫の広域ネットワークは大きな強みですね。たとえば、栃木で挑戦する若者と新潟の企業をつなぐとか、埼玉の研究者と長野のVCを結ぶとか、そういう“面の支援”ができるのは公庫ならではだと思います。

高田

はい。全国152支店のネットワーク、現場の知見・人脈を活かして、人と人を「つなぐ」ことも私たちの役割です。「会わせる力」を発揮することで、エコシステムの厚みを生み出していきたいですね。

堀下

まさに、人が人をつなぎ、縁が広がっていくことで地域のエコシステムは強くなる。つくばもその実践の最前線にあると思います。

「希望を捨ててはいけない。あきらめたらそこで試合終了だ。」有名なスポーツ漫画で出てくるセリフですが、無限大の創造力を持つ若者は、苦しい場面でも藻掻きながらあきらめずに動き続けることで自身が描く未来への道が拓けてくるのでしょう。
無限大の創造力を持つ若者が挑み続けるとき、その背後には“安心”を支える金融のセーフティネットと、“挑戦”を後押しする仕組みがあります。挑戦と支援の新しい結合こそが、社会を変えるイノベーションの源泉です。

スタートアップが挑戦し、成長し、世界へ飛び立つ旅の物語
“つくばスタートアップジャーニー”
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