INTERVIEW インタビュー記事

未来への共創〜ルクセンブルクとつくば、ディープテックで結ばれる回廊〜

Luxinnovation Head of International Business RelationshipsJenny Hällen Hedberg

Jenny Hällen Hedberg氏は、ルクセンブルク国家イノベーション機関「Luxinnovation」にて国際関係部門の責任者を務めており、特にテクノロジー企業のルクセンブルク誘致に注力しています。高等教育・研究分野における上級管理職としての豊富な実績を有し、企業におけるリーダーシップ経験も兼ね備えています。国際関係、グローバル連携、国際教育、機関間・企業間パートナーシップ、大学ランキング、ブランド構築、学生の国際交流など、幅広い分野での経験を有しています。また、広報・マーケティング・コミュニケーション、国際教育、学生交換、奨学金、卒業生ネットワーク、産業界・政府機関・大使館との戦略的連携構築など、多岐にわたる業務を統括してきました。これまでに、ルンド大学(スウェーデン)、ルクセンブルク大学、南洋理工大学(シンガポール)、欧州会計監査院など、国際的に著名な機関において要職を歴任しています。

ルクセンブルク貿易投資事務所(東京)(LTIO)エグゼクティブ・ディレクター松野 百合子(まつのゆりこ)

1996年に駐日ルクセンブルク大使館に勤務開始、2005年より現職。日本とルクセンブルク間の貿易・投資促進を統括し、これまでに60社以上の日本スタートアップをルクセンブルクのテックイベントへ招聘。ルクセンブルクへの日本企業の直接投資を誘致する一方、ルクセンブルク企業の日本市場展開を支援。大使館勤務以前は、外資系PR会社、米独合弁メーカー勤務を経て独立コンサルタントとして活動。

つくば市政策イノベーション部スタートアップ推進室 室長屋代 知行(やしろ ともゆき)

つくば市出身。大学卒業後、民間研究部門を経て2006年につくば市役所へ入庁。途中、経済産業省への2年間を経て、政策企画、防災、シティプロモーション、現市長直下の政策マネジメントに従事し、スタートアップ支援8年目に突入中。プラチナ構想スクール(1期)、NEDO-SSA Associate(4期)、TXアントレプレナーパートナーズ メンター会員(個人として副業活動)、インパクト・コンソーシアム官民連携分科会(所管:経済産業省)コアメンバー。

※本インタビューでは、スタートアップとベンチャーを同義語として扱います。

ともに未来を創る

日本を代表する「研究学園都市」であるつくばと、欧州のイノベーションを牽引する拠点であるルクセンブルク。地理的には遠く離れていますが、この2つの中心地は今、一つの「ディープテック・コリドー」によって結ばれつつあります。

つくば市とルクセンブルクの国家イノベーション機関であるLuxinnovationとの戦略的パートナーシップは、単なる形式的な行政協定にとどまりません。これは、宇宙、ライフサイエンス、サステナビリティといった、私たちの共通の未来を形作る分野におけるスタートアップが、国境を越えて事業を拡大し、地球規模の課題に取り組む力を与えるために設計された、強固な架け橋としての役割を果たしています。

本記事では、ルクセンブルクが欧州進出の理想的なゲートウェイとしてどのように機能するか、そしてこの深く根付いた信頼が日本の起業家にどのような計り知れない可能性をもたらすかを探ります。Luxinnovationへのインタビューを通じて、世界を変える運命にある協働エコシステムのビジョンを明らかにします。

英文はこちら:https://tsukuba-startup-journey.jp/interview/2026-march-en/

01. ルクセンブルクのビジネス環境と強みについて

屋代

今回、我々のルクセンブルク出張を快く受け入れていただき、ありがとうございました。2022年12月2日につくば市とLUXINNOVATIONがスタートアップ支援での連携MoCを締結してから、双方のスタートアップの訪問、そして2024年には当時のギヨーム皇太子殿下のつくば訪問など、迅速に連携事業を実施してきました。
このような素晴らしい成果は、ジェニーさんをはじめとしたルクセンブルクの皆様、そして松野さんをはじめとした東京のルクセンブルク貿易投資事務所の皆様のサポートがあってのものです。
ジェニーさんは、以前つくばに来られたことがあります。つくば市としては五十嵐市長が2023年にICT SPRING(現在のNEXUS)に招待されましたが、スタートアップ支援の責任者である私は、一度もルクセンブルクに来たことがありませんでした。
私は、各種資料でルクセンブルクのビジネス面での強みを把握しておりますが、今回、実際に現地で感じることはとても多いです。
今回のインタビューでは、日本のつくばや東京のスタートアップがルクセンブルクについての情報を深く理解することを目的とします。
お二人とも、どうぞよろしくお願いします。

ジェニー

ようこそルクセンブルクへお越しくださいました。我々にとって、つくば市はとても大切なパートナーです。つくばのスタートアップの皆様にルクセンブルクのことを知っていただけると幸いです。

松野

ようやく、屋代室長と高橋部長をルクセンブルクにご案内することができました。お二人に来ていただくことが待ち遠しかったです。ルクセンブルク貿易投資事務所としても、歓迎いたします。

屋代

ルクセンブルクは、その地理的な面やビジネス環境から欧州の「スマートハブ」と言われています。そのエコシステムの俊敏性とアクセシビリティは、読者はルクセンブルクをEU拡大における第一選択地と認識しているのではないでしょうか。
ルクセンブルクは欧州で最もビジネスに優しい環境の一つと評されることが多い中で、実際に支援しているジェニーさんの視点から、この国が外国起業家にこれほど歓迎される最大の要因は何だと考えますか?

ジェニー

大変興味深いご質問をありがとうございます。ルクセンブルクが際立っている最大の理由は、その戦略的な地理的条件にあります。フランスとドイツという2つの巨大な経済圏の間に位置しており、ビジネスの完璧なハブとして機能しています。
日本企業にとっての大きな利点は、すべてのビジネス業務を英語で行えることです。私たちの労働力は非常に国際的であり、現地スタッフは通常、フランス語やドイツ語を含む複数の言語を話すことができます。これにより、近隣の巨大市場へのアクセスが非常に容易になります。さらに、Luxinnovationや商工会議所による支援サービスは無料であり、特につくば市の企業に対しては、現在の連携協定に基づいた手厚いサポートを提供しています。

松野

補足しますと、ルクセンブルク政府は国際的な企業のための実用的なプラットフォームとして機能しています。私たちののアプローチは非常にビジネスフレンドリーであり、過度な規制を課すのではなく、成長を促進することに重点を置いています。また、EUの規制を導入する際も、外国の起業家の事務的負担を最小限に抑えるよう、可能な限り「ライト(軽量)」な形式を採用しています。

屋代

確かにそうですね。私の個人的な感覚でも、EUにおいてドイツとフランスは、大きな国力を持っていると感じます。これは誰もが頷くことだと思います。そこへの地理的なアクセスの良さはメリットが大きいですし、シェンゲンエリアでもあるため、往来がスムーズなことも魅力です。EUがしっかりと機能しているということを、ルクセンブルクで感じられたことは貴重な体験です。でも、これが他のシェンゲンエリアの国でも同じかというと、そうではない気がします。ルクセンブルクが欧州のゲートウェイと言われるのは、とても納得します。
実際に日本の大手企業もルクセンブルクに欧州の拠点を構えていますよね?

松野

仰るとおり、ルクセンブルクには日本から各セクターを代表する企業が進出しています。国際金融の欧州ハブであるルクセンブルクには三菱UFJ、野村、三井住友、東京海上をはじめとする金融機関が進出していますが、それに加え、ファナック、楽天、富士通、NTTのようなテクノロジー企業、また宇宙スタートアップのispaceもルクセンブルクで欧州ビジネスを展開しています。

屋代

ルクセンブルクに進出する企業は、自分の会社の成長のために進出するわけですが、ルクセンブルク現地の企業にとってはどのようなメリットをもたらしますか?

ジェニー

これは非常に重要なポイントです。ルクセンブルクには、鉱業や鉄鋼業から始まった製造業の強い歴史があります。現在、Luxinnovationの役割は、これら伝統的な大企業のイノベーションを加速させることです。確立された企業は、新しい知識を取り入れ、イノベーションのスピードを上げるために、スタートアップに注目しています。進出するスタートアップと伝統的な企業をマッチングさせることで、双方に利益をもたらすダイナミックなエコシステムを構築しています。

屋代

つくばのテクノロジーは、まさにルクセンブルクや欧州の伝統的な大企業にとっても有益なものと思います。つくばのスタートアップとルクセンブルクの企業をマッチングさせる上での重要なポイントがあれば教えてください。

ジェニー

私からのアドバイスとしては、Luxinnovationのチームに所属するビジネス開発担当者に相談されることをお勧めします。彼らは、ルクセンブルクやヨーロッパでどのような専門知識が求められているかについて、日本企業にアドバイスすることができます。また、ルクセンブルクの大手企業への接点も持っています。基本的に、ディープテック分野であればすべてが私たちの関心対象です。具体的には、デジタル家電、サステナブルな製造、自動車・宇宙・防衛関連、AI、量子技術、ロボティクス、センシング技術などが挙げられます。

02. Luxinnovationとつくば市の連携と特徴について

屋代

つくばとルクセンブルクはアカデミックな組織が多いという共通点があります。ハイレベルなテクノロジー領域において、つくばとルクセンブルクの連携では、どのような価値が生み出されると考えていますか?

ジェニー

つくば市は、広大な大学群と長年にわたる研究開発(R&D)の知見を持ち、この分野の紛れもないリーダーです。私たちのディープテック・エコシステムはより若いものですが、ルクセンブルク政府は現在、資金援助や「Technoport」のような専門のインキュベーターを通じて、この分野を強力に推進しています。
つくば市の企業と、私たちの研究機関(LIST:ルクセンブルク科学技術研究所など)との研究協力には大きな可能性があります。具体的には、過去20年間で宇宙分野における強力な基盤を築いてきましたが、現在はサイバーセキュリティや量子技術の分野にも全力で取り組んでいます。これらの分野で深い専門性を持つつくば市とパートナーを組めることを、大変嬉しく思っています。

屋代

まさに、ルクセンブルクにあってつくばにないものは「ビジネス視点」でのサポートです。テクノポートなどの支援組織、金融拠点としての機能、大企業の集積は、つくばのスタートアップにとっても魅力的です。我々も連携が前に進むことを嬉しく思っています。

03. 今後の期待

屋代

地球規模の課題解決に向けた長期的な取り組み。国境を越えた成功事例への相互の期待。読者は、このパートナーシップの将来に対して安心感と期待を抱いています。
今後5年間で、この連携を通じてどのような具体的な成果(共同プロジェクトやスケールアップの成功事例など)を期待していますか?

ジェニー

私たちのマリオ・グロッツCEOはこのパートナーシップを非常に重視しており、より大規模なプロジェクトを支援する用意があります。両地域間で、例えば「スタートアップ・イン・レジデンス」プログラムや、インキュベーター内につくば市企業専用の枠を設けるなど、ターゲットを絞ったプロジェクトを共に創り出していくべきだと考えています。
もし、私たちの「Fit 4 Start」プログラムのような、成功したブランド化プロジェクトを構築できれば、それは国際的なパートナーシップのロールモデルとなるでしょう。私たちの究極の目標は、この交流を通じてスタートアップが利益を上げ、成長し、パートナーやクライアントを見つけることです。

屋代

そうですね。我々側は現在JETRO事業でルクセンブルクへスタートアップを派遣しています。これはとても短期的なものですが、中長期的な仕組みも今後考えていくことが望ましいと思っています。その際には、過去につくばのスタートアップも採択されたFit 4 Start」を起点とした連携が一番効果的だと考えています。つくば市がサポートする企業は、この世界的な選考プロセスにおいても高い親和性があると考えます。
いずれにしても、基礎研究をベースとしたスタートアップは、会社として安定するまでに多くの年月を要します。我々も短期的な目線ではなく、中長期的な目線で連携していきましょう!

経営論で著名なP.F.ドラッカーは、イノベーションに成功する者は「リスク志向」ではなく「機会志向」であると述べています。 私たちは、リスクを「不確実性」と捉えています。 機会を創出し、不確実性を明確にすることで、イノベーションの確度は上がると信じています。
ドラッカーが説く「機会志向」とは、変化を恐れず、未来を自ら手繰り寄せる姿勢に他なりません。しかし、未知の市場への挑戦は、時に孤独で険しいものです。だからこそ、私たちはこの「ディープテック・コリドー」という確かな道筋を築きました。
不確実な明日を、共にワクワクしながら歩めるパートナーがここにいます。

スタートアップが挑戦し、成長し、世界へ飛び立つ旅の物語
“つくばスタートアップジャーニー”
未来のための、あなたの旅の仲間はここにいます。