行政の戦略を「自分ごと」へ。移住者と筑波大生が語る、市民委員というまちづくりの入口
つくば市スタートアップ戦略策定懇話会 市民委員/株式会社Cymbi 執行役員菅谷 勇貴(すがや ゆうき)
ベンチャー・スタートアップに特化し、採用・組織づくりを支援している。新卒で大手化粧品メーカーに入社後、留学・ワーホリを経て、スタートアップCOOを経験し、軸をベンチャー・スタートアップに。3年前につくばへ移住し、つくばのスタートアップへの転職や、スタパでの登壇など、つくばでも精力的に活動。今年、ついにつくばに住居を構え、長期的につくばの盛り上げに貢献していきたい。
つくば市スタートアップ戦略策定懇話会 市民委員/筑波大学 医学群 医療科学類 3年/株式会社LINOA 取締役CBO谷垣 聡音(たにがき さとね)
2005年生まれ。つくばで生まれ育ち、現在は筑波大学医学群医療科学類3年生。自宅で素材に関する実験を開始し、その成果により総務省主催「異能vation」ジェネレーションアワードを受賞、日本応用糖質科学会ポスター賞を最年少受賞。2024年6月より株式会社LINOAのファウンダーメンバーとして取締役CBOに就任し、次世代研究者コミュニティを軸とした産学連携や次世代研究者育成にも取り組んでいる。
株式会社しびっくぱわー 代表取締役堀下 恭平(ほりした きょうへい)
東日本大震災を機に筑波大1年次に開業しコミュニティカフェを創設運営と商店街活性化に参画した後、行政計画策定支援で起業し、以降8社起業経営。全国60自治体以上の行政計画を策定。まちづくりとスタートアップ支援を軸に年間1,500件以上のイベント企画/運営/登壇。令和元年度茨城県知事表彰受賞。総務省地域力創造アドバイザー。
スタパでの座談会風景:左から谷垣聡音さん、菅谷勇貴さん(撮影:株式会社しびっくぱわー)
聞き手:株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長 堀下恭平
※本インタビューでは、スタートアップとベンチャーを同義語として扱います。
※本記事は、つくば市のスタートアップ支援施策に関連して制作したインタビュー記事です。取材・編集は株式会社しびっくぱわーが行いました。
※所属・肩書きは取材時点(2026年1月)の情報に基づきます。
つくば市では、2018年からスタートアップ支援を本格的にスタートさせ、同年12月には「第1期つくば市スタートアップ戦略」を策定し、さまざまな施策を実施してきました。
その成果と課題を踏まえ、2023年4月からは「第2期つくば市スタートアップ戦略(〜2028年3月)」に移行し、「人的資源と研究成果を活かしたスタートアップ創出」と「スタートアップが成長できるエコシステムの醸成」の2つを基本方針に掲げ、各種施策を展開しています。
2025年度は、「第2期つくば市スタートアップ戦略」の中間見直しの年にあたることから、有識者を交えて「つくば市スタートアップ戦略策定懇話会」を開催し、市のスタートアップ支援の今後の方向性などを議論しました。
今回は、「つくば市スタートアップ戦略策定懇話会」に市民委員としてご参加いただいた、菅谷勇貴さん、谷垣聡音さんのお二方に、つくば市のスタートアップ支援に対する思いを語っていただきます。
市民委員とは?
自治体が進める政策や戦略について、市民の立場から意見を届ける役割。募集要件は自治体により異なりますが、つくば市ではスタートアップ戦略の見直しにあたり、公募で選ばれた市民委員が議論の場に参加しました。
参考:つくば市「市民委員」
01. 応募のきっかけ
堀下
谷垣さん
私はつくば生まれ・つくば育ちで、高校時代から研究に力を入れてきました。その中で、研究成果を世の中に届けるプロセスに「スタートアップ」という選択肢があることを知ったんです。きっかけは、つくば駅前にあったコワーキングスペース「up Tsukuba」でした。
堀下
あ、僕も一緒にやっていた場所です!
谷垣さん
そうなんですね!高校2年か3年の頃、up Tsukubaの方にお話を聞きに行って、そこからスタパ(つくばスタートアップパーク)を紹介していただきました。今は自分で会社を立ち上げて、中高生や大学生の研究者を集めたコミュニティづくりをしています。学生として、筑波大学の学生として、何か意見できることがあるんじゃないかと思って応募しました。
堀下
つくば生まれ・つくば育ちで、高校時代にスタートアップに触れて、自身でも起業している。当事者性があるわけですよね。菅谷さんはいかがですか。
菅谷さん
僕がつくばを好きになった要因は、スタパなんです。しかも、スタパを知ったきっかけが、まさに今回見直した戦略の資料で。たまたま保育園関係で市役所のホームページを見ているときに、「スタートアップ」という文字を見つけて。行政の資料って読みにくいイメージがあったんですけど、「あ、ちゃんと読める!」ってなって。気づいたら、1時間くらいかけて全部読んでいました。そのままの勢いで、市の問い合わせフォームに長文を送ったんですよ。
堀下
市のインフォメーションから?
菅谷さん
はい。「つくばに住んでます。これ何ですか」みたいな。無視されるだろうなと思ったら、返信が来て、そこでスタパを知りました。
堀下
応募する前、市のスタートアップ支援についてどんな印象を持っていましたか。
菅谷さん
当時は市の立場で支援するという感覚がわからなかったんです。何に一番注力しているのかが見えにくかった。でも、実際にスタパに来てみたら、印象が変わりました。人の顔が見えて、血が通っている会話がある。そういう場を市がつくっているというのは、すごくいいなと思っています。
谷垣さん
私は、コミュニティの要素がすごく強いんだろうなと感じていました。スタートアップの定義として成長を目指している会社というだけではなく、広く挑戦する人を応援している。私は特に会社というカタチにこだわっていなかったんですけど、「こういう取り組みをしたい」という相談にも乗っていただいて、それが本当に大きかったです。
つくばスタートアップパーク(スタパ)とは?
つくば市が運営する起業・創業の支援拠点。コワーキングとして使えるほか、起業家・研究者・支援者が交流できる場でもあります。会員でなくても、起業・経営に関する個別相談を行っています。
02. 実際に懇話会で議論してみて
堀下
今回、市民委員として懇話会に参加されていましたが、会議の雰囲気はどうでしたか。
菅谷さん
僕は市の方とミーティングするのが初めてで、様子を見ていたら、みなさんいい意味で忖度なく切り込んでいくんです。しかも、そこにかぶせて「私は違う意見です」って。
堀下
僕は前回の懇話会委員をやってましたけど、皆さんちゃんと反対意見を述べますよね。挙手で順番待ちになってましたもん。
菅谷さん
あれはめちゃくちゃ建設的だなと思いました。
堀下
そんな中で、菅谷さんが特に主張したことは何ですか。
菅谷さん
つくばに移住する人って、やっぱり住環境で選ぶことが多いんですよね。子育てしやすいし、都内にも通える、リモートもしやすい。住みやすさとスタートアップ支援を抱き合わせでブランディングしていいんじゃないかと。
実際、住んでみて「ここいいですよね」って言っている知り合いで、スタパを知らない人もたくさんいるんですよ。住環境の文脈から届けていいんじゃないかと、強く言わせていただきました。
堀下
谷垣さんは、他の委員の意見で印象的だったことはありますか。
谷垣さん
今の菅谷さんの話が、すごく印象的でした。生まれ育った人間って、環境の良さにあんまり気づかないんですよね。住環境を理由につくばに来る人がいるんだ、ここも魅力なんだというのを初めて知ることができました。
あと、スタートアップっていろんなカタチがあるよねっていう話。Jカーブを描くものだけじゃない、いろんな成長モデルがあるということが私には新鮮でした。出口を見据えた支援というのも、行政としてできるといいんだろうなと。
懇話会における主な意見
・つくば市がスタートアップ支援を行う理由を明確にするべき
・つくば市ならではの強みを打ち出すべき
・創業期から、出口戦略を見据えた資本政策などの支援をしっかり行うべき
・研究シーズの保有者とフォロワー人材を繋ぐ施策を行うべき
中間見直しの主なポイント
・つくば市がスタートアップを支援する背景として、つくば市未来構想の理念及び目指すまちの姿を実現するために、イノベーション創出とアントレプレナーシップに重点を置いた文脈に修正
・ディープテック・スタートアップの実情を反映させたスタートアップの再定義
・つくば市の強みとして、住環境について追記
・8つの個別施策のうち3つを重点化(起業・チャレンジ精神の醸成、初期事業化の促進、エコシステムの構築)
・第3期戦略に向けて準備を行う旨を追記
03. 放っておくと閉じてしまうネットワークをつなげたい
堀下
つくばには、スタートアップ、先端技術の研究者、地域企業など、さまざまなプレーヤーがいます。市民委員として感じた課題はありますか。
菅谷さん
つくばが好きな人たち、さまざまなコミュニティはあるんですけど、意外とそれぞれのコミュニティが交わっていないなと感じています。
堀下
領域が違うと、なかなか接点がないですよね。
菅谷さん
ディープテックの領域って、このエリアとしてすごく特徴的ですよね。ただ、放っておくとどうしても閉じたコミュニティになりやすい。外からよく知らない方が見たときに、「自分には関係ないコミュニティなんでしょ」と見られかねない。個人的にそれはすごく嫌で。
堀下
コミュニティが閉じてしまうのは課題ですよね。
菅谷さん
僕はわりといろんな人と、いろんなところで楽しくできるタイプなので、個人でできるつながりの範囲から、それぞれをつなげていきたいんです。スタパとかで出会えなかった人と話すときに、とりあえずスタパに呼んで会う機会をつくる。そうやって個人の範囲でゆっくりつなげていけたらいいなと思っています。
04. つくば市のスタートアップ支援への期待
堀下
谷垣さんは、つくばへの思いに変化があったそうですね。
谷垣さん
これまで、全然こだわりなくつくばにいたんです。つくばにいたいと思っていたわけじゃなかった。
堀下
個人的に谷垣さんは、今後の大学院進学などで、海外とかにも行きそうだなと思っていました。
谷垣さん
行った方がいいとは周りの方にも言われてるんですが、現時点では、やっぱりつくばの方がかっこいいなと思っています。
堀下
いいね。つくば生まれ育ちでそれを言えるのは本当にいいですね。
菅谷さん
僕も自分の子どもが大きくなったとき、そのセリフを言わせたいですね。
谷垣さん
大学生になって、つくば以外の場所に行くようになってから、「つくばってすごくおもしろいな」と気づくようになったんです。つくば生まれ育ちの人ってつくばの良さに気づいていないなって。「つくばってこんなに素晴らしいところなんだよ」って言えるようになりたいですね。
今後、国際学会とかで「え、あのつくば?」って言ってもらえるような研究を、このまちから生みたいと思っています。
堀下
市のスタートアップ支援に期待することはありますか。
谷垣さん
市だからこそできることにこだわっていってほしいなと思っています。まち全体を見たときに、スタートアップ支援がここにこういうふうに役立っていくんだという、ビジョンを描きながらやるというところが、今回の中間見直しで一番大きく変わったポイントだなと思っています。
特に教育的な側面。科学技術に触れる機会と同じように、チャレンジャーに触れる機会を今後つくっていただけたら、市のスタートアップ支援としてすごくいいのかなと。「スタートアップがつくばに必要だよね」って言ってもらえるようなまちにしていけたらいいですね。
堀下
菅谷さんは何か期待することはありますか。
菅谷さん
やっぱり市なので、中身をどれだけ見せられるかっていうのがあると思っていて。僕は市役所の方と一緒にいろいろやっていて、血の通った人間同士で関わっている熱量をすごく感じています。
一方で、これは文面とか資料だけでは伝わらないので。つくば市にこういう人がいて、こんな熱いことをやっているよっていうのが、もっとストーリーとして見えるようにしてほしいなと思います。スタートアップ推進室って黒子になりがちじゃないですか。でも、人と人のつながりが大事な部署だからこそ、もっと前に出ていただいてもいいのかなと。
05. 見直しに関わって変わったこと
堀下
今回の見直しに関わって、何か印象に残ったことはありますか。
谷垣さん
私が今回関わったことで一番変わったのは、地方自治体の動き方、見え方が結構変わったことですね。
市役所って、淡々とこなしているイメージがあったんです。でも、今回近くで見ていて、つくば市としてのアイデンティティを持って議論や資料をまとめているということがわかった。行政側の意志が見えたんです。それがすごく良かったなと。
部署ごとに分かれているから動きづらいところもあるだろうなと思っていた中で、ちゃんと熱を持って動いてる方がいるというのが見えたので。
菅谷さん
僕も同じですね。市の税金でやってるし、決まった枠の中での普通の見直しなのかなと思いながら参加していたんですけど、ものすごく本質的な議論になった。そもそもスタートアップの定義を見直すって、すごいことじゃないですか。
堀下
本当にそうですね。スタートアップ戦略の見直しの中で、スタートアップの定義自体を変えたというのは、エポックメーキングだと思います。
06. 筑波大生が残れるまちへ
堀下
最後に、今後つくば市にどのように関わっていきたいか、言い残したことはありますか。
谷垣さん
つくばの強みを、これからも探求していきたいというのが一番ですね。自分のアイデンティティになりつつあるつくばを、もっと追求していきたい。
それから、筑波大生が就職で外に出るのは、すごくもったいないなと思っていて。インターンとかで、みんながめちゃめちゃ時間とお金をかけて都内に行って…。もっとつくばに働き口をつくるという意味でも、スタートアップ支援ってめちゃめちゃ大事なんだろうなと思っています。
堀下
残りたいけど、残る先が限られすぎている。雇用を生んでいかないといけないですよね。人口減が財政逼迫に直結するがゆえにスタートアップ支援をするんだというのは、ロジックが通っているから僕は好きですね。やらねばならぬ理由がある。こういう当事者である方が市民委員として関わっているのはやっぱりいいですね。
菅谷さん
つくばって、スタートアップとか関係なく、いいまちなんですよね。個人的に家を買うにあたって、父親がつくばに来たのですが、まち並みが、大きなビルがあってという感じでもないし、田舎すぎる感じでもなく、道路も広いし、便利そう。と言っていました。
堀下
生活に困らないんですよね。ファミリーに優しいまちっていうのは強いですよ、本当に。
菅谷さん
やっぱりスタートアップとかわからない人でも、まちとして来ただけでいいって思うところがたくさんある。大学とかも含めて、魅力はすごくあるんだろうなと。
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取材を通じて気づいたのは、行政の戦略への関わり方は、日常の延長線上にあるということでした。保育園探しの途中で見つけた資料、高校時代に知ったスタパ。きっかけは、特別なものではなかったのです。
「外から来た人」と「中で育った人」の視点が重なることで、当たり前だったものが強みに変わる。まちづくりとは、そうした気づきの交差点をつくることなのかもしれません。
「自分ごと」として考え始めることは、誰にでもできます。
研究のアイデアがある。事業化してみたいテーマがある。まだ漠然としているけれど、何か新しいことを始めてみたい。そんな思いがあるなら、つくばには、その一歩を支える仕組みがあります。
つくばスタートアップパークでは、起業・経営に関する相談を気軽に受け付けています。「まだ何も決まっていない」という段階でも大丈夫。まずは、自分の可能性を誰かに話してみることから始めてみませんか。
つくば市は、挑戦者を応援し、イノベーションを育む環境づくりを通じて、スタートアップだけでなくすべての挑戦者に開かれたまちを目指しています。しっかりとした支援体制と挑戦を歓迎する空気感が、誰もが安心して一歩を踏み出せる原動力になります。
私たちは、皆さまの挑戦を心から応援しています。
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まず、お二人がなぜ今回の市民委員に手を挙げたのか、お聞かせください。